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ドクター&ナースのつぶやき

令和7年11月号

「よく生きる力」に寄り添う訪問看護

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社会医療法人雪の聖母会
聖マリア訪問看護ステーション
管理者 古賀さとみ
緩和ケア認定看護師


 「よく生きること」は、ターミナルケア・在宅医療・訪問看護において、最も重要な視点のひとつです。治療の限界を迎えたとき、私たちが支えるのは「命の終わり」ではなく、「その人らしく生きる時間」です。古代ギリシャの哲学者ソクラテスも、「魂をより善きものにすることこそが、人生で最も価値ある営みである」と語っています(プラトン著『ソクラテスの弁明』より)。つまり、「よく生きる力」とは、病や困難の中でも、自分らしく生きようとする意志そのものです。
 ある日、進行がんで抗がん治療が困難となった患者さんが、「これ以上の治療は望まない。家に帰りたい」と話されました。ご家族もその思いに寄り添い、自宅退院が決まりました。自宅は6階でした。退院支援に入り、玄関を開けた瞬間、風が通り抜けるのを感じた利用者さんが「この風がいいのよ」と微笑まれました。その一言には、住み慣れた場所に戻れた安心と、日常の中にある小さな幸せが詰まっていました。
 「よく生きる力」は、こうした些細なことの中にこそ宿るのだと思います。心地よい風、家族との会話、窓から見える景色…それらが、その人らしい時間を形づくります。 

私は緩和ケア認定看護師として、病院のホスピス病棟や緩和ケアチームで勤務してきました。現在は訪問看護ステーションの管理者として3年目を迎えています。がんのターミナル期を迎える方々の支援に加え、心不全や高齢者など、非がんの方へのケアにも力を入れています。
 ターミナルケアでは、医療用麻薬の持続注入など専門的なケアを訪問看護師が一人で担う場面も多く、麻薬管理は特に重要です。当事業所ではスタッフへの教育に力を入れ、安全なケア体制の構築に努めています。また、私たちのステーションではリハビリスタッフの力も大きく、身体機能の維持や環境調整を通じて「できること」を支え、「生き抜く力」を引き出しています。 

これからも、看護とリハビリが連携し、スタッフ教育や地域との協働を進めながら、一人ひとりの「よく生きる力」に寄り添える訪問看護ステーションを目指していきたいと思います。

 参考文献
1)プラトン著、田中美知太郎訳『ソクラテスの弁明』岩波文庫、岩波書店、1953年


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