「働き方改革から見えた人材育成の大切さ」

九州医療センター 病院長  岩﨑 浩己

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勤務医の時間外・休日労働時間(以下、時間外という)に上限規制が適用されるようになって1年が経ちました。「医師の働き方改革の施行後状況調査(厚生労働省)」のフォローアップ結果を見ますと、福岡県内で大学病院等からの派遣医師数が減少した病院が一部(10%未満)に認められるようですが、当初心配されていた救急医療や周産期医療の逼迫に関しては大きな問題は生じていないようです。大学病院をはじめとした各医療機関の努力が効を奏した結果です。

当院は全診療科でA水準(年960時間/月100時間未満)を選択することを早々に決断し、2年近くかけて準備を進めました。(1)システム導入による医師の勤怠管理の見える化、(2)業務時間と学習/成長(自己研鑽)のための時間の区別に関するコンセンサス形成、(3)診療科ヒアリングの実施と実態に合った勤務線表への見直し、(4)時間外が月75時間を超える医師を対象とした産業医面接の実施(睡眠負債と疲労蓄積度の評価)、(5)大学病院からの派遣医師で夜間・休日診療を回している診療科(麻酔科、小児科、産婦人科)の宿日直許可取得、(6)診療看護師、特定行為看護師、医師事務作業補助者等によるタスクシェア・シフトなど、労務担当副院長には大いなる情熱を持って取り組んでいただきました。その結果、令和6年度の最多時間外は年958時間となりA水準をクリアすることができました。年900時間超の医師22名について診療科の内訳を見ますと、循環器内科6名、脳神経外科・脳血管内治療科6名、呼吸器内科3名、消化管外科2名、心臓外科1名となっており、やはり急患対応の多い診療科医師の負担が大きい現実が見て取れました。押し並べて見ますと、常勤医師(120名)の月平均時間外は48.9時間、非常勤医師(専攻医/レジデント61名)は45.9時間、初期臨床研修医(58名)はなんと26.5時間という結果でした。

当院の働き方改革はひとまず順調に滑り出したところですが、いくつかの課題も浮き彫りになりました。ひとつは人材確保と育成の問題です。医師事務作業補助者の確保は容易ではありませんし、診療看護師や特定行為看護師の養成には時間とコストが掛かります。タスクシェア・シフトを持続可能なものとするために、計画的な取り組みを続ける必要があります。もう一つ、今回のデータを見て改めて気づかされたことは、当院の研修医教育の在り方がこのままで良いのかということです。研修医一人ひとりがチームの一員としての自覚をもって積極的に診療にかかわっていれば、また指導医も熱意を持って研修医と向き合っていれば、スタッフ医師の半分程度の時間外ということにはならないだろうと思うからです。将来の日本の医療を担う研修医を預かる臨床研修病院として、もっと教育に力を入れる必要があると率直に感じています。

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