医報5月号_特集_対談切り抜き1.PNG

蓮澤 今回の医報の特集は「政治に何を求めるか〜医療現場の我々が主張すべきこと〜」がテーマです。医療現場の最前線で活躍する若手医師の代表として、本会理事の蜂須賀先生とともに日本医師連盟の推薦で参議院選挙の立候補を表明されている、かまやちさとし先生にお話を伺います。日本の医療をより良いものにするために現場の声をどのように政治に届け、どのように反映させるべきか、一緒に考えていきたいと思います。

1 医師を志したきっかけ

蓮澤 まず、かまやち先生は小児科医でいらっしゃいますが、医師、そして小児科医をめざすきっかけは何だったのでしょうか。
かまやち 父が群馬県高崎市で小児科の開業医をやっておりまして、父の背中を見て育ったというのが一番のきっかけだったと思います。
蓮澤 蜂須賀先生は産婦人科医ですが、産婦人科医をめざすきっかけは何かありましたか。
蜂須賀 私も祖父が開設した産科診療所の3代目の院⻑をしておりますが、医師になった当初は外科も考えていました。産科医を志したのは九州大学の周産期センターで研修をして、実際に命懸けの妊婦さんや赤ちゃんたちと接するなかで、そのやりがいと重要性を理解してからというところです。

2 医師会との出会い

★5月号3.JPG

蓮澤 かまやち先生は、43歳のときに群馬県高崎市医師会の理事に、蜂須賀先生は41歳のときに福岡市中央区医師会の理事に就任されておられます。きっかけや当時の医師会の印象、また役員を務めてからの医師会に対する思いなど、ございますでしょうか。

かまやち 小児科は、郡市区医師会の中で担うべき業務がとても多かったと思います。一方、会員の中で小児科の医師数が多いわけではないので、先輩の小児科医が決めた順番に沿って、小児科として医師会の役割を担わなければいけないというのが最初のきっかけだったと思います。
 当時の医師会の大きなテーマとして、高崎市には外科系の病院がいくつもあるなかで公立の医療施設は国立高崎病院しかなく、人口規模に比べると公的病院が少ないため高崎市民病院を建てたいというのが大きな希望として出ていたところで、私は医師会の役員になりました。
 結論を申しますと、結局行政は高崎市に新たな病院をつくることには賛同せず、国立高崎病院を市民病院としてしっかり財政的にも支援して運営するという選択をしたので、医師会としても最終的にはそれに同意しました。
 一方、当時は地方自治体が国立病院に財政支援をするようなことを総務省は許さなかったので、非常に苦労があったわけですが、最終的には高崎市がお金を出して建てた部分は高崎市の区分所有にする。そのうえで、ほとんど賃料を取らずに国立病院がそこで自由に病院として運用するという、抜け道のようなことが了承されて、国立高崎病院が建て替えできたということです。
 その頃は医師会長になってからで、あちこちにお願いに回って、医師会と高崎市と病院と、地元の私立の病院からなかなかの抵抗がありましたので、そのあたりの調整を一生懸命したというのが、高崎市医師会における役目でした。
 役員を務めてから、やはり医師会というのは行政としっかり連携し、地域の大学病院であった、いろいろな病院と連携をして、地域の医療をしっかり構築するためにはなくてはならない組織だということに気づいて、その役割をしっかり担わなければならないという思いで今日に至っております。
蓮澤 貴重なお話ありがとうございます。蜂須賀先生、いかがですか。
蜂須賀 先生の壮大なお話のあとに恐縮ですが、私は福岡市中央区の医師会の新入会員歓迎会で、当時の中央区医師会長からお誘いいただき、わけもわからず中央区医師会の理事となりました。お恥ずかしい話ですけれども、入会当時私は医師会と専門医会の区別すらついておらず、医師会は開業医の集まりで役員は大御所の先生方がなるもの、その程度にしか思っていませんでした。
 そんな私でも現在、福岡市医師会の常任理事や県医師会の理事をさせていただいており、活動してきたなかで少しは医師会の存在意義を理解できるようになってきました。またそのような経験から選挙権を持つ医学生のうちから医政を真剣に考える機会があればいいのになと常々思っています。

3 日本の医療政策の現状

蓮澤 かまやち先生は令和2年から流行した新型コロナウイルス感染症に関して、日本医師会感染症危機管理対策室⻑、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議構成員などとして最前線で活動されてこられたと思います。当時の活動について、振り返っていただけますでしょうか。

P1015577.JPG

かまやち まず、新型コロナウイルス感染症というのがどういうものかというのが全くわからないとき、令和2年2月初旬に豪華客船ダイヤモンドプリンセス号が横浜港に入って、それ以降のいろいろな活動がそこから始まりました。当時、日本医師会長をお務めになっておられた横倉先生が、非常に早く、先見の明をもっていろいろな対策の会議で、対策本部の立ち上げであるとかにいち早く手を打たれて、横倉先生のご指示のもとに動いてきたと思います。その後、国の会議に出させていただくようになり、当時、対策分科会というものの座長をしていた尾身茂先生が、その構成員を手弁当で、自主的に土曜日か日曜日に毎週集めて、そこでいろいろな情報の整理や情報共有をするという取り組みが行われていて、私はこれが非常にありがたかったと思います。そのときにいろいろな専門の人から伺う情報がとても役に立ちました。それからは、日本医師会として情報発信する場合には、決して国民の皆さんの不安をあおるような発言をしてはいけないということと、正確な情報をわかりやすく迅速にお伝えするということ、また落ち着いて話をするということを心掛けてきたつもりです。
 最初のひっ迫は令和2年3月末頃に、医療機関がコロナの対応でもう現場が回りにくくなっているというような声が全国から聞こえてきました。都道府県とのWeb会議が始まって、各県からも現場が非常にひっ迫しているという話があり、それに対して横倉先生が4月1日に医療危機的状況宣言を出されました。国は緊急事態宣言をすぐには出したくないというのが4月の初めで、その後結局は宣言を出したわけですけれども、それに先駆けて横倉先生が、政府ともきちんと調整しながら、今は医療がなにしろ大変なのだというのをお出しになったというのは非常に強く印象に残っております。
蓮澤 大変ご苦労があったと思いますが、なんとか落ち着いてきましたね。命を守るため、そして医療従事者の先頭に立ち尽力された先生に、心より敬意を表します。さて、昨年から医師の働き方改革が施行されて約1年経過しました。全国で現場の声などをお聞きになって、かまやち先生いかがでしょうか。
かまやち この働き方改革の結果、医療現場が大きく混乱するのではないかという懸念もあり、もちろんご苦労が増えてしまっている方々も多いことも確かですが、施行後1年の現状としては、なんとかそれぞれの現場で工夫してやっていただいていると思っています。一方で、全国から伺う話としては現場、特に大学病院などでの医師のモチベーションが下がってしまっており、これまで意欲的にさまざまなことに取り組んできたけれども、あまり時間が長くなってはいけないのではないかということで、少しモチベーションが下がっているのではないかというような懸念も伺っています。
 もう一方では、平成16年の臨床研修の大幅な変更以降の、医師になって最もいろいろなことを吸収する大事な2年間が9時〜5時の生活になってしまっている医師の方々は、はたして必要な経験が積めているのだろうかということは、懸念されています。それに対してはしっかり検証して、今のままのやり方でいいのかどうか、振り返らなければならないと思います。平成16年に新たに臨床研修が行われるようになってもう20年以上になるわけなので、検証作業は必要なのではないかと思っています。
蓮澤 そうですね。昔は医局に残っているといろいろなことがあって、それで先輩医師についていけばいろいろな経験ができたんですよね。
かまやち おっしゃるとおりですね。
蓮澤 今はもう、「早く帰れ」と言われるような状況で、それが当たり前になってきているところで、気になるところではありますね。蜂須賀先生は産婦人科医院の院⻑で働き方改革はいろいろな影響が大きいかと思いますが、現場はいかがでしょうか。
蜂須賀 産科の分野では、妊婦さんへ影響が出ないように宿日直許可を含めて早くから準備をしていました。実際に施行される前からその体制に入っていたと考えます。相変わらず産婦人科は希望者が少ない診療科で、働き方改革をしないとさらになり手がなくなると現場は必死になっています。それでも現場には多少影響がございまして、たとえば福岡で申しますと、福岡で産婦人科の2次救急を担っていた中核病院で産婦人科医の当直体制がとれなくなりました。そのために、産婦人科症例で救急搬送される軽症・中等症患者さんが3次救急の医療機関へ運ばれる事例が今、増えているということです。本来は2次救急で対応すべきところが3次救急にいっている。こうした事例がこれから先、増えてくるとどうなるかという懸念がございます。
 また、働き方改革の施行後は診療体制維持のため、働き方改革が関係ない有床診療所の経営者、医師が当直回数を増やして頑張っていますけれども、産科医師もかなり高齢化が進んでいます。コロナ禍で加速した出生数の減少による赤字経営で、こちらもモチベーションを保つのが非常に難しい状況になっていると推察します。そのような状況下で、働き方改革による労働負担増というのが、相次ぐ有床診療所の分娩対応の中止や閉院を後押しした可能性は多少あるのではないかと思っています。現場はぎりぎりの状態なので、今から働き方改革の影響が大きくなるのではないかと予想しております。
蓮澤 ありがとうございました。そのほかに、現在の日本の医療制度やさまざまな課題について蜂須賀先生、産科分野ではいかがですか。
蜂須賀 産科分野で申し上げますと、実際には以前に比べ妊産婦健診の助成券が充実しておりまして、妊産婦さんの経済的負担は確実に減っているとは思います。しかし、福岡県でも自治体間でその助成券に差が出ていますし、分娩施設がないという自治体もどんどん増えています。分娩施設がない自治体から分娩施設へ移動するにも、人手不足でタクシーの移動も難しいといった状況ではなかなか安心してお産ができませんので、これは人口減少にさらに拍車をかけるのではないかと思っています。
 また、経済的負担だけではなく、妊産婦さんへのメンタルフォローも以前にも増して需要が増えていると思われますので、これは引き続き取り組むべき重要課題と考えています。国のほうで産後ケア事業と妊産婦のメンタルヘルスに関するネットワーク事業の推進に予算を付けていただいておりますけれども、福岡県においても不足する宿泊型の産後ケア施設の充実や、メンタルヘルスにおいては精神科、小児科、行政とともに妊産婦を見守る体制づくりをめざしていきたいと考えています。
蓮澤 小児科の先生方もいろいろ課題があるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
かまやち 小児科の診療においての今の一番大きな問題はやはり、受診者の減少です。人口の減少で子どもの数が減って、受診される方の数がどうしても減ってくるというなかでどのように診療所を維持していくかということは、とても大きな課題になってきています。そのあたりのところを踏まえた診療報酬の体系がぜひ必要なのではないかと思います。
 一方で、子どもの数が減ってくるということは、親御さんも子育ての経験が乏しいなかで子どもを育てなければいけないという方が増えてくるので、いかに小児科医がその親御さんのいろいろな不安や課題に寄り添って適切にお支えするかということが、さらに求められているのです。小児科医の役割が今後なくなるというようなことは決してなくて、しっかり役割を担わなければならないと思っていますが、そういう部分に対して診療報酬はほとんど機能しないというか付いていません。小児科医が担っている役割について社会的にも認めてもらって、なんらかの形でその貢献を評価していただくような取り組みが必要なのではないかと、小児科医としては願っているところです。
蓮澤 いま診療報酬の問題が出てきましたけれども、現在の物価高騰にもなかなか対応できていないような状況です。そういった点で、かまやち先生から何かご意見はございませんか。
かまやち これまでずっとデフレの世の中で診療も行ってきたわけですけれども、今後はインフレが起こって諸物価が上がりますし、いろいろな材料、そして光熱費もとても高くなる。人材を確保するためにはどうしても処遇の改善をきちんと、定期的にやっていかなければならないというなかで今後の医療機関の運営は困難を極めてくるわけです。物価の上昇や人件費の増加は公定価格である診療報酬の中で十分にタイムリーに手当てするというのは難しく、物価の上昇に応じた、あるいは人件費の上昇に応じた形で、きちんと診療報酬が上がるような仕組みを導入しないととても間に合わないと思います。そういう方向が今後は模索されていく必要があると思っています。
蓮澤 若い人たちが少なくなって、看護学校などの希望者も入学が少なくなってきていますが、そういった人材確保などに関してもやはり、報酬といったものは関係してくるのですね。
かまやち おっしゃるとおりです。なんとしてもきちんと報酬が確保できるような取り組みをしないと、人材はとても確保できないと思います。
蓮澤 これから高齢者が多くなっていくなかで、それを支える側の若い人たちが少なくなっていく。いろいろな手だてが必要だろうと思いますが、何かいい案がありますでしょうか。
かまやち 医療財源を他の領域に比べて突出して確保するというのはなかなか難しいと思いますので、医療費全体をなるべく上げない形で、どういうふうにやっていくのかということが必要になってくると思います。ただし、そのようななかにあっても医療収入と医療支出との収支差をきちんととれるような体系にしていかないと医療機関の体力が維持できませんから、その収支差をきちっと確保したうえで、議論が必要になるだろうと思っています。
蓮澤 そうですね。ありがとうございました。

4 若手医師の現場の意見と課題

蓮澤 私たち医師会は、あとを受け継ぐ若い先生方に期待するわけですけれども、若手の先生方は今、日々の診療を通じて現場のいろいろな課題を肌で感じておられると思います。たとえば労働環境の問題、地域医療の維持、医師の偏在などさまざまな課題があります。蜂須賀先生から何かお聞きしたいことはありますか。

★追加3.JPG


蜂須賀 若手だからといって特に現場で感じる課題は変わらないと思います。医師会の先生方は敏感に現場のことを酌み取っていらっしゃると私は感じていますが、診療報酬だけでなく、やはり医薬品の供給不足ですね。私は産婦人科で手術もしますし無痛分娩もしますけれども、麻酔薬が足りないとか、フェンタニル、麻薬の供給が不足しているとか、そういった事態はやはり安心して医療ができるという状態ではないので、そこは大きく課題として挙げられるのではないかと思います。
 また、私は産婦人科医になった時から、夜間働く医療者の不足は常に課題としてありましたが、最近では保険診療を行う医師として昼間に働く先生ももう減っている状態かと思われます。私の所属する福岡市の中央区医師会は未入会医療機関が非常に多い区なのですが、その理由として天神という九州一の繁華街がございまして、美容系の医療機関が多いためです。昨年は「チョクビ」という言葉も世間で知られるようになりましたが、彼らが持続可能かどうかは別として、若手にとってはそれだけ保険診療を行う医療機関に報酬的な魅力がないと感じているのだと思われます。
 個人的な報酬だけではなくて、我々は国⺠皆保険を守っていきたいのだけれども、医療費は削減され、診療報酬も下げられる。病院の経営は困難を極めて、病院の建て替えも建築費が高騰して計画を中止したというようなニュースも珍しくありません。人員だけではなくて、設備を維持することすら難しくなっていては、今後医療を継続していけるのだろうかという不安がやはり若手にはございます。この先の医療界の未来を創造するには、かまやち先生が掲げていらっしゃるように、結局は社会保障費の問題が鍵になると思います。その点についてはいまお伺いして、私もそこが大事だと思っています。
 またせっかく小児科医と産科医ですので、少子化に伴う今後の変化にどう対応すべきか、かまやち先生の考えをお伺いできたらと思っています。残念なことに、新しい地域医療構想には周産期に関する言及はほぼ皆無ではないかと思います。この国の未来を考えるうえで少子化は止まらないにしても、充実した周産期医療や小児の救急体制を維持するのは重要と考えますが、かまやち先生は今後の産科、小児科の診療体制はどうあるべきとお考えか、お聞かせ願えればと思います。
かまやち いま蜂須賀先生からお話があった点は非常に大事なところで、まず小児、あるいは周産期の医療が今後どうあるべきかということについては、やはりしっかりその領域を十分持続可能になるように、国として全力でそこを支えるのだというメッセージがまずぜひ必要で、その裏付けとしてしっかりしたさまざまな補助や、報酬上の手当というものが必要だろうと思います。
 今後、少子化の流れを食い止めるのはなかなか難しいとしても、これから生まれてくるお子さん方、また妊娠をして子どもを生み育てる方々に対して国がしっかり支えるという姿勢が、どうも今は十分見えてきていない。少子化対策自体もどうもあまり皆さんに、確かに納得して受け入れられているとはとても思えないので、そのあたりがぜひ必要だろうと思っています。
 妊婦さんや、子どもたちに対する対応がしっかり行われていなければ、今後のわが国の将来は非常に暗いものにならざるを得ないので、そこは声を大にして訴えていかなければいけないと思います。少子化対策では、こども家庭庁もできましたけれども、果たして今、うまく機能しているのかというとなかなかそこはまだあまり見えてきていないように思います。少なくとも医療の面で言えば周産期、また子どもの医療が国の強い支援のもとにしっかり行われているという状態を実現することが極めて重要だと思っていますので、そのためにまた強く働きかけていく必要があるだろうと
思っています。
 それから、先ほど蜂須賀先生からお話がありましたが、新たに医師として働いていこうというふうに意欲をもって参入してくださる方々に対して、現状は、残念ながら将来に対する夢が持ちにくい状況になっています。そうすると誰も参入してこないということにもなりかねないので、先々の医療の提供体制が心もとないものになります。
 したがってまず、それぞれの医療の現場はとてもやりがいがあって、力を尽くすべき大事な領域であるというアピールも大事ですけれども、一方でしっかり処遇面で報われるという形をつくらないと誰も参入してきません。そのあたりのところはもう早急に手を打たなければならないと思っています。やはり今後、若い方々が医師として長いあいだ地域のために力を尽くしてくださるということがなければ、本当に医療は今後非常に暗い未来しか見えてこないということがあります。
 それから一つ、ぜひ申し上げたいのは、地域で医療を担っているということは、適切な医療を提供するというのはもちろん、それ以外にさまざまな社会医療活動といわれるようなものをしっかり担わないと、地域の医療は成り立たないですね。それはあまり報酬が期待できるわけではなくて、しかしそれでも医師の矜恃としてやらなければならないという義務感からやっていただいているところがありますけれども、もっとそれに参入していただける方を増やさないと、とても維持できません。そのあたりのところはやりがいとともに、それに時間を割くことの対価がしっかり準備されないといけないのではないかと思っています。そういう今まで担ってきた機能がみんな失われてしまうと、住民の皆さんは大きな不都合を感じることになるだろうと思っています。

5 政治に求めるもの

蓮澤 いろいろな課題が出てきました。それに対しては具体的な制度的な改善が求められると考えますが、若手医師は医療と政治の関係をどのように考えているでしょうか。政治に何を求めているか。蜂須賀先生いかがでしょう。
蜂須賀 私が考えるに、政治に求めるものはやはり、現場の声をしっかり聞いて解決するスピード感が重要かと思います。それはコロナのときもそうでした。
 そして今後、医療界が持続可能かどうかというところで、政治がどう対応してくれるかというところは注目しています。先ほどかまやち先生もおっしゃられましたけれども、いまわが子に医者になることを本気で勧められる医師がどれほどいるのかと思います。「医政なくして医療なし」。病院経営と医政に関わらなければその意味が私もわかりませんでした。正直なところ多くの若手医師は無関心だと思いますし、私も医政に関して無知でした。私を含めそんな医師たちも、コロナ禍で初めて医療と政治の関わりを感じたのではないかと思っています。
 そういった意味でも、コロナ禍の最前線でご活躍されていたかまやち先生が今回立候補された意義は大きいと思っています。ぜひ私たちの声が届く医政の実現をかまやち先生にお願いしたいです。
蓮澤 今回の特集のテーマになっている「医療現場の我々が主張すべきこと」について、若手医師も政治との関わりを意識する必要があると感じます。医療政策に影響を与えるために、現場の医師ができることは何でしょうか。
かまやち やはりまず、現場で働いておられる、特に若い方々が大きな矛盾や、あるいは不都合を感じておられると思うのですが、その思いを一人でぼやいているだけでは改善につながりません。医政活動というなかでも特に、その地域を代表して国会に行っているような国会議員の方々との信頼関係がしっかりできるように、いろいろな場面でつながりをまず持っていただくということが大事だと思います。
 そんな時間的な余裕がないなどという思いもあるかもしれませんが、政治との付き合いというのはある日突然できるわけではなくて、身近なところで、たとえば市や区の議会の方々をしっかり応援するということも必要です。その中で県議会議員の方々とのつながりができて、それがまた国会議員の方々ともつながっていく。やはりそういうつながりの広がりというものが必要なので、それを面倒臭がらずに日頃から努力をしていただく、これは医療を良くするためにはぜひ必要な取り組みだと思います。
 その内容を私どもはより多くの方々に訴えて、それに力を注いでいただくようにお願いをしていかなければならないと思います。そういう取り組みが増えていくことが、国政に自分たちの現場の窮状をしっかり伝えるということにつながるのではないかと思っていて、それがとても大事だと思います。
蓮澤 ありがとうございました。医師会も若い先生方の入会を促進して一緒に取り組んでいこうと考えており、医師会としての一つの大きな課題だろうと思います。

6 まとめとメッセージ

蓮澤 かまやち先生は「優れた医療・介護を全ての人へ、次世代へ」をスローガンに「未来に」「国⺠に」「地域に」「行政に」伝える。届ける。という「4つの理念」を掲げておられます。今回の決意のきっかけやそれぞれの理念について、その思いを聞かせていただけないでしょうか。

★5月号.JPG

かまやち まず日本医師連盟の推薦をいただき、公的な立場から医療政策に携わる決意をした一番大きなきっかけはやはり、令和6年の診療報酬や介護報酬の過程をつぶさに見て、これではわが国の医療や介護を今後続けていくのは難しいのではないかというふうに強い危機感を持ったことで、それならば日本医師会での経験をしっかり生かして、お役に立たなければならないという思いに導かれたということです。
 その思いの中で、では具体的にどういうふうに多くの方に伝えていくのか。まずは医師会員の方々、あるいは医療に従事している方々に思いを伝えなければならないし、それだけでは足りなくて、やはり地域の医療をいかにしっかり持続できるようにするか、国民の皆さんが最も求めておられることに応えていくということが必要です。そしてそのために、行政とも良好な関係をつくりながらその地域に必要なことを医師の立場で率直に申し上げて、行政が確かにそのとおりだと思えば状況が変わってくるということがあると思います。
 そして「未来に」というふうに出しましたけれど、これは今後わが国に生まれてくる人たち、またこれからわが国をしっかり動かして支えてくれる人たちにしっかり思いを託さなければいけないということで、そのような標語を挙げました。「未来に」ということは今、わが国の国民皆保険制度は非常に優れていますけれど、これは本当にもろいもので、一度壊れればすぐにもなくなってしまうというところもあるので、小児科医としての経験も踏まえてこれから成長、発育していく子どもたちにしっかりした思いを届けたいということで「未来」というものを一つ挙げました。
 それから「地域」は、今後医療や介護がしっかり行われていく現場はそれぞれの地域であって自分と関係のない遠いところではないので、まずその地域の状況をしっかり確かなものにする。特に在宅が求められる場面も今後増えてくるので「治す」医療から「治し、支える」医療に転換していって、さらに、災害のことも常に頭に置いてやらなければいけない。
 そして「国民」の皆さんに賛同してもらわないと、医師が勝手なことをやっていると思われては駄目なので、国民の理解と協力が得られるような、有効な発信方法をしっかり伝えるということ。
 また「行政」との緊密な連携のもとで、それを医師としていかにお支えするかというような姿勢で取り組んでまいりたいと思います。そういう私の思いとして、この4つのテーマを掲げたわけです。
蓮澤 いま全国各地を回っておられますが、反応などはいかがでしょうか。
かまやち 本当に多くの皆様に支えていただいて、ただただ感謝です。しかし、現場は非常に厳しいところが多くて、なんとかしてほしいという思いが本当にひしひしと伝わり、責任の重さを痛感しています。なんとか多くの皆様の大きな声をいただいて、そしてそれをしっかり背負わせていただいて、強い発言力につなげていきたいと思っています。
蓮澤 ここまでのお話を通じて医療政策の課題と若手医師が果たすべき役割、政治・政策について考えてきましたが、蜂須賀先生いかがでしょうか。
蜂須賀 本日は貴重な機会を与えていただきありがとうございました。これからの時代を考える責任というのは、今の時代を生きる医師の誰もにあると思っています。それは臨床での医療技術の向上もですけれども、それが必要な患者さんへ届くように考える医政に関してもその責任があると思います。もっと身近な問題として私世代、私よりさらに若い世代の先生方にも政治に興味を持っていただきたいと、そう願っています。

蓮澤 最後に、かまやち先生から今後の医療界を担う若手医師に向けてメッセージをお願いしたいと思います。
かまやち 現状は大変厳しい場面が多いのですけれども、決して将来に悲観することなく、なんとかこの愛するわが国を少しでも良い方向にもっていこうという思いを皆さんが持ってくださることによって事態は変わっていくだろうと思います。もうだいぶ年を重ねてきました私どもの年代もまた、若い方々のために全力を尽くしたいと思っていますから、しっかり手を携えてわが国のために、医療を良くするために全力で取り組んでいきたいと思っています。
蓮澤 ありがとうございます。医療現場の声を政策に反映させるためには、医療現場を深く理解されているかまやち先生が最適任と思います。福岡県医師会も一致団結して一緒に取り組んで、頑張ってまいりたいと思っています。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
かまやち ありがとうございました。

ページの先頭へ