ドクター&ナースのつぶやき

令和8年8月号


独居高齢者の看取りにおける新たな形
~血縁を超えた絆と「治し、支える医療」~

                           楽らくサポートセンター レスピケアナース 
山田真理子 


 福岡市南区で「楽らくサポートセンター レスピケアナース」という訪問看護ステーションの管理者をしている山田と申します。当ステーションは、人工呼吸器や在宅酸素など医療依存度の高い方の看護を得意とし、赤ちゃんから90代まで幅広い年代の方の在宅療養を支えています。
 現在、2040年の「多死社会」1)に向け、65歳以上の一人暮らし世帯は増加2し続けています。アンケートによれば国民の半数以上(54.1%)が最期を「自宅」で迎えたいと希望3)しているものの、実際に自宅で亡くなる方は17.4%4にとどまっているのが現状です。この「願い」と「現実」のギャップを埋めるためには、病院完結型の「治す医療」から、地域社会全体で包括的に生活を支える「治し、支える医療」への転換5)が強く求められています。在宅でこの「治し、支える医療」を実践するうえで、地域包括ケアシステムを表す「植木鉢の図」という概念6があります。生活の基盤となる「鉢(住まい)」の中に「土(介護予防・生活支援)」があり、私たち専門職は「葉(医療・看護・介護)」として関わります。そして、一番下で全体を支えている最も重要な基礎が「皿(本人の選択と、本人・家族の心構え)」です。
 しかし、私たちが訪問する現場では、この「皿」となってご本人を支えるのは、必ずしも血縁のある実の家族とは限りません。「血縁関係のない親しい友人」が同居し、日々のサポートや看取りを支えるという新たな形が増えつつあるのです。
 例えば、遠方にご家族がおり、ご友人が主介護者を担っていたケースがありました。ご本人が急変された際、私たちは「葉(医療の専門家)」として迅速に対応し、ご家族を呼び寄せる調整を行いました。同時に、不安を抱えながら最期の時に向き合うご友人に対し「夜中でも連絡してよいですよ」と連日寄り添い、決して孤立させないよう努めました。
 また別のケースでは、終末期の「命の選択(点滴の有無など)」を血縁のないご友人が任され、深く葛藤される場面がありました。ご本人の気持ちが揺らぎ、ご友人も「何か治療をしてあげたほうがいいのではないか」と思い悩む中、私たちは治療による身体的リスクなどの医学的な正論だけで一方的に否定することはありませんでした。重責を担うご友人のプレッシャーやお二人の思いをありのままに受け止め、丁寧な対話を重ねて穏やかな看取りへとつなげました。
 「家族が介護するべき」という既存の価値観に囚われず、利用者様とその方を大切に思う人たちの関係性を尊重し、ありのままを受け入れること。私たち訪問看護は「治し、支える医療」の担い手として、その人らしい命が住み慣れた「鉢」の中で最後まで生ききることができるよう、血縁を超えた「皿」の絆ごと包括的にサポートしてまいります。

引用・参考
12040年の「多死社会」(年間約170万人の死亡数がピークになる予測)
・出典元: 国立社会保障・人口問題研究所の推計、および厚生労働省「人口動態統計」
265歳以上の一人暮らし世帯の増加
・出典元: 内閣府「令和6年版高齢社会白書」
3)国民の54.1%が最期を「自宅」で迎えたいと希望している
・出典元: 厚生労働省「令和4年度 人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査報告書」
4)実際に自宅で亡くなる方の割合(17.4%
・出典元: 厚生労働省「人口動態統計」(2022年のデータ)
5)「治す医療」から「治し、支える医療」への転換という言葉
・出典元: 2008年に厚生労働省が公表した「安心と希望の医療確保ビジョン」
その後の診療報酬改定の基本方針等でも打ち出されている重要な考え方です)
6) 地域包括ケアシステムを表す「植木鉢の図」
・出典元: 平成28年(2016年)3月 地域包括ケア研究会報告「地域包括ケアシステムと地域マネジメント

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