第3回心のふれあい大賞作品集
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⃝一般の部 最優秀賞 ― 「空は青」とから「もやもや病」と言われている。原因は不明とのことで、今も研究が進められている。その病気に自分がなったら、やはり「どうして」という言葉が浮かんでくるのは当たり前だろう。だけど、答えなんかない。 もやもや病になった。脳梗塞を起こした。バイパス手術を受けた。高次脳機能障害になった。苦しくてつらくて、それでもそのことを言葉にできなくて、何度、言葉を飲み込んだことだろう。まわりは動いている。日常を送っている。笑って泣いて怒って、そしてまた笑って、と繰り返しているのに、ひとり、椅子に座ったまま、まわりを眺めている、それが私だった。どうすることもできないことにいらつきながらも、次の行動がわからない。同時にふたつのことを言われると、頭の中が真っ白になった。 仕事もない お金もない 頭の中はぐーるぐる 朝起きて 犬連れて 三十分ちょっとの散歩道 電話もない あるわけない 薬は一日三度飲む~♪ 吉幾三の歌じゃないけど、「俺ら東京さ行ぐだ」の曲調で歌いたくもなる。 バセドウ氏病も発症していた。脳梗塞との因果関係ははっきりしていないが、ある意味で関係があるかもしれない、と言われている。 ある日、血管内科の先生に言った。「私、このまま生きていても仕方がない、と思うんです」 何度か通っているうちに、心を開いた先生だった。患者のひとりひとりが持っているものも、その背景も違うということに気づいているような先生だった。こんなことを言っちゃいけないけれど、冴えない先生だった。羽おった白衣にもどこか皺が寄っている。しかし、そこが何とも言えない味わいを醸し出していた。それまでも数多くの先生や看護師さんにお世話になったけれど、気弱な言葉を吐けたのはこの先生が初めてだった。 先生は黙り込んだあとで、こう言った。「だけど、今日はいい天気ですよ。空は真っ青だ」 坊主頭の先生は、照れたように笑った。その笑顔の中に、大切なことが隠されているような気がした。 空は青。 その言葉が胸に広がった。五月の風がやさしく吹いている。みずみずしい青空が広がっている。この空を見ている限り、まだ生きている、と思えたのだった。診察室を出るとき、振り返って先生の顔を見た。「ありがとうございます。また、来ます」 あの先生の言葉が、今でも頭の中に残っている。空を見上げながら、今日も生きていこうと思っている。5

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