第2回作文コンクール入賞作品集
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⃝一般の部 優秀賞 ― 「お命と握手の話」取れない一番辛そうな時期でしたが、大好きなI先生の回診と握手は、確実に母の生きる力となり、私達にも希望を与えてくれるのでした。 さて、このI先生は、面談で説明される時に「お命」という言葉を使われました。 私には、このお命という言葉がとても印象的で、ある時、その事をお尋ねしました。 すると先生は、意外にもキョトンとされて「えっ僕、お命って言ってますか?」 少し考えて「あ、言ってますね。指摘されるまで、気がつきませんでした。」と言われました。「そうなんですね。でも先生が、お命という言葉を使われると、母がとても大切にされているように思われて、先生となら一緒に頑張れる!と、励みになります。」「それは、恐縮です。命というものに畏敬を感じているからでしょうか? ま、これからも一緒に頑張りましょう。」としっかり握手。S病院退院後もI先生とは、特殊な抗癌剤を処方して頂く為に、毎月お会いしました。 そんなある時、先生の医者を志すきっかけが中学生の時に余命宣言を受けたお母様が、幸い元気に回復された事だったと伺いました。しかも、救急救命医を目指された事も。「救急救命だけは、医者次第なんです。この先生だったから助かったけど、この先生ではというのがはっきりしていて、僕は、その助ける方の医者になりたい!と思いました。」 淡々とした話し方でしたが、その目は、すいこまれるような美しい目をしていました。 先生ご自身が、患者の家族を体験されていて、そこに医者の原点があり、しかも、お命を助けたいという強い意志をお持ちだったという事を知り、改めてこのI先生で本当に良かったと、お礼を言って退室しかけた時にふいに先生が、両手を差し出し「握手、握手。大事な握手を忘れていますよ。さ、また来月お会いしましょう。」私は、先生のお話に聞き入ってしまい、忘れていた握手をしっかり覚えていて下さった事に胸が熱くなり、その時の握手は、いつもに増して熱く感じました。けれどもI先生とお会いしたのは、この日が最後になってしまいました。 母の闘病生活は、絶望から始まり、かなり壮絶なものでしたが、I先生との信頼関係を築けた事で、母のお命が、一日一日増えていく様な感覚に変わりました。そして、その増える喜びが、最後の日への恐怖を和らげる事となり、結果とは裏腹に、悲しみよりも安堵感を感じています。納得のいく医療を受けられたという事でしょうか? いつか又少し貫禄のつかれた?I先生にお会いして感謝の握手が交せたらと願っています。 本当にありがとうございました。7

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