第1回作文コンクール優秀作品集
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⃝一般の部 優秀賞 ― 「二つの出逢い」た。眠ることなど出来ず、涙と鼻水がとめどなく溢れた。そこは、大部屋だ、声を出すことも、鼻を啜る事も、音を押し殺さないといけなかった。 そのまま、夜は明けた。Fさんが朝の回診に来た。私の状態は、引き継ぎで知っていただろう。私は、一目で分かるほど、一晩流れた涙のせいで、目が腫れていた。 Fさんは、不意にベッドの脇に近づいて来て、床にひざを付き、私のお腹に手をそっと添え、お腹に顔を近づけた。「まだゆっくりしとっていいとよー。貴女のママはすごーく素敵よー。優しいママを選んでこのお腹に宿ったんでしょ。早く会いたいのは分かるよ。どうせ、ずっとは居られないんだから、もう少し、ゆっくりしといたらー。」 と、子守唄のように優しく心地のいい口調で語りかけた。そして、少し背筋を伸ばして、「中村さんの子宮さん! まだ、頑張らないで下さい。もうしばらく、赤ちゃんを優しく包んで守ってあげてください。」 と、祈るように真剣な口調に変わった。私に聞こえるか聞こえないかの小声だった。目を強くつぶったせいで、目頭に沢山のしわができたFさんの横顔が見えた。 Fさんが、慰めでも、気遣いでもなく、心から純粋な気持ちで、胎児と子宮に語っていた。私は、また、涙が溢れた。しかし、さっきまでの涙と違う涙だった。優しさに包まれて、嬉しさと感謝が混ざった涙だった。看護師と患者の枠を超え、Fさんという人の心からの言葉だった。立ち上がり、私に「持ちこたえて欲しいね。」 と、声をかけてくれた。私は、泣きべそをかきながら、大きくうなずいた。 それからの私には、Fさんの存在が、強い味方となり、確実に力となった。 なんとか、正期産に達するまで、お腹の中で育てることができた。赤ちゃんが成熟している証といわれる、鼻の上の白いポツポ(面皰)がある程、元気な女の子と出逢うことが出来た。 Fさんは、とても喜んで下さった。辛かったはずの入院生活の中で、心に残るFさんとの出逢いがあったことに感銘を受けている。7

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