勤務医のつどい 第53号
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勤務医のつどい ⑶ともに語ろう、ともに考えよう、ともに行動しよう 今、なぜ新たな専門医制度が必要かというと国民のニーズに応えるため、また医師のキャリア形成のためである。この制度は専門家による自律性、プロフェッショナルオートノミーを尊重して設計することになっている。 新制度では第三者機関が各分野の専門医の養成プログラムの認定を行う。プログラム作成には各都道府県の行政、大学病院、医師会等が関わる。都道府県ごとに地域医療支援センターができており、こういった機関が中心となって、地域全体でどのように医師を養成していくかを検討し、それをふまえて専門医養成プログラムを作成する必要がある。プログラムとして、基幹病院が大学病院のような大病院で、一定の期間は地域の中小病院に行くパターン、あるいは医師不足地域の中小病院が基幹病院となるパターンも想定される。 我が国では、高齢化が進展しており、2050年になると高齢化率が40%となり、日本は世界でまれに見る超高齢社会になる。そのため、入院、外来ともに受療率が高くなり、医療ニーズが高まる。また、量だけでなく、医療の質の要求も高まっている。医療の質は「臨床の質」「経営の質」「制度の質」といった要素に分解される。 「臨床の質」について、「専門医に何を期待するか」というアンケートでは、疾患に対する知識、診断の正確さ、治療法への精通、医師としての能力、薬剤の知識を求めるという回答が多かった。このニーズに応えるためにも、専門医の質をきちんと担保しなくてはならない。 また、「制度の質」については制度の持続性ということが問題となる。社会保障給付費のうち、医療は約3割を占めている。給付が増加している一方で、国の歳入は増えていないため、借金で賄っている。債務残高を国際比較すると、日本は他国よりも圧倒的に多くの借金を抱えている。今は太平洋戦争時代と同じぐらいの借金量ともいえる。憲法第25条の第2項に規定されているとおり、国は、公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。制度の維持が至上命題だが、高齢化が進み、単身の高齢者世帯が増加するといった変化が起きており、現行の社会保障制度では対応できないという問題もある。 そこで、昨年、『地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律』が成立し、2025年に向けて都道府県単位で地域医療構想(ビジョン)をつくることとなった。上記法律には、国民側、つまり医療を受ける側の「医療を適切に受けるよう努める」という責務も盛り込まれた。 医師の役割については、医師法の第1条において、「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」とされている。医師は社会的資源ともいえ、1人の医師を養成するのに数千万~一億円かかるといわれる。その医師が、地域、診療科に関し偏在していることが今の課題となっている。今後は、医師としてのキャリア形成と地域医療の貢献を両立させる仕組みが必要になる。 緒方洪庵が紹介した言葉に、「人の為に生活して己の為に生活せざるを医業の本髄とす」とある。自分のキャリアを考えることも重要だが、今後は地域枠の学生だけではなく、全ての医学生が地域全体の医療のことを考えて、キャリアを積んでいくような状況になればよいと思う。医師臨床研修制度と新たな専門医に関する仕組み厚生労働省九州厚生局健康福祉部医事課長 入江 芙美業医施設を中心に行われており、妊産婦のリスクに応じた分散がなされていた。1961年、ホワイトがニューイングランド・ジャーナルに、医療のエコロジーという論文を発表してその概念を示したのが最初と思われる。その内容は、ある地域に住む1,000人を1ヶ月間追跡調査したところ、少し具合が悪いが医師の診察を受けるほどではないという人が約750名、近くの医師の診療を受けて良くなった人が約250名であった。しかし15名程は専門医による詳細な検査や治療が必要であったという結果を示し、この診療の分布を医療のエコロジーと表現したものである。2001年になり、グリーンが全く同様の調査を行ったところ、この40年間に医療が進歩し、治療対象となる患者さんの重症度も変わったにも拘らずその分布は同じであったことを報告した。宮崎県における周産期医療とホワイトやグリーンらが調査をしたプライマリケアという医療の内容が異なっても、医療のエコロジーバランスは類似していることが分かる。また、宮崎大学では平成24年からドクターヘリの運航を開始して全県下をカバーする救急医療を積極的に展開している。ドクターヘリによる災害現場からの患者搬送の状況を重症度スコア別に調査したところ、理論的にはほぼ類似の分布を示した。まだ始まって2年間程のデータで、宮崎県内の厳密な救急患者対応の分布状況の把握はできていないが、地域の救急医療にも医療のエコロジーの姿がみえてくる。さらに、福井らによる一般市民1,000人への健康問題の発生頻度と対処行動のアンケート調査でも、専門医を必要とする患者数には同様の結果が示されている。つまり、医療のエコロジーの概念を伴わぬ大病院の専門医志向は医師の疲弊を招き、医療提供体制のバランスを崩しかねない。専門医の養成と同時に、十分なトレーニングを受けた一般総合医の養成も合わせて進めて行く必要があると考えられる。

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