勤務医のつどい 第49号
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ともに語ろう、ともに考えよう、ともに行動しよう 近年、周産期医療の進歩はめざましいものがあり、母体死亡率(対10万分娩)は5以下となり、周産期死亡率(対1000分娩)も2.9と全世界でもトップクラスとなった。このようなことから、分娩は安全なものと捉えられるようになり、母児ともに問題なく分娩が終わることは当たりまえとされるようになった。しかし、分娩は予期せぬ事態に陥ることがあり、現在の医療では全く解決のつかない疾患もあることも事実である。周産期医療の進歩は、逆に民事訴訟の増加に繋がったともいえる。2006年の産婦人科の新規医療訴訟の件数は161件で頻度としては産科医1,000人あたり12件で内科医の約4倍であった。近年、その件数は減少しているが、それでも内科医ひとりあたりの約2倍程度と高率である。 産科医療では過酷な労働条件や医療紛争が多いことから、産科医療を担う若手医師が減少し、地域の産科医療提供体制にも問題を生じ、その解決が重要な課題となった。 2009年に分娩に関連する脳性麻痺児とその家族の経済的負担を減少させ、その原因分析を行い、再発防止を目的に産科医療保障制度が運用されるようになった。その原因分析の結果では、常位胎盤早期剥離、臍帯脱出など予見できない疾患で生じることが多く、分娩管理における脳性麻痺症例は非常に少ない。この制度は始まったばかりであり、脳性麻痺に拘わる医療紛争が減少したかどうかについては、今後の検討が待たれる。 一方、現在でも日本全国で約50人弱の妊娠に関連する妊婦死亡が報告されている。日本産婦人科医会は2009年から妊産婦死亡報告事業を開始し、その原因分析、再発防止に努めている。その原因分析結果では、現在では羊水塞栓、羊水塞栓症を原因とする後産期出血、肺血栓などが主な原因であり、現在の医療でもその予知、治療は不可能なことが多い。分娩室に入るまでは元気であった妊婦さんが、不幸な転帰を取った場合、家族は何が起こったのか真実を知りたい、また、担当医の過誤を疑う。一方、担当医にとっても何が起こったのか不明なことが多く、明確な病態を説明することは難しい。“この様な場合、誰に相談するのか?”同僚医師に相談しても真実は明らかとならないことが多く、患者家族も納得されないことが多い。その真実を明らかにするためには、あらゆる専門家がいる第三者機関が関与し、その真実を明らかにすることが担当医、患者家族にとって有用と考える。この様なことからも福岡県医師会の新たな試みであるモデル事業に期待したい。産科医療の現状と医療安全対策久留米大学総合周産期母子医療センター 教授 堀 大藏 シンポジウム ── ②識者の立場から シンポジウム ── ③産婦人科医の立場から 「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」(以下、「モデル事業」と略)は、医療の質と安全の向上に向けた第三者調査委員会による死因の医学的調査を公平かつ公正に行ない、再発防止策の提言や医療の透明性を促進することを目的に、厚労省補助事業として平成17年に発足し、平成23年に一般社団法人「日本医療安全調査機構」に改組され今日に至っている注1)。発足当初は内科・外科・病理・法医学会が設立母体であったが、その後、70余の日本医学会、医師会等の団体や臨床系学会が協力機関として参画し、我国医療界をあげての事業に発展している。現在、福岡を含めた10地域で本事業が試行され、取り扱った事例は193例に達している。 福岡地域での事業は、福岡県医師会と県内関連4大学を母体として、平成19年に福岡県内の全ての医療機関を対象に発足し、これ迄に9事例を受付け、全ての事例の評価結果報告とその説明会を終了している。 然し乍ら、本事業を全国的な診療関連死亡事例の「死因究明制度」に発展させる為には、多くの解決すべき問題が残されている。特に、全地域で「モデル事業」に参加した医療機関の9割近くは200床以上の中・大規模医療機関であり、クリニック等の小規模医療機関は極めて少ない。小規模医療機関で医療事故が発生すると、警察への届出や本事業への登録についての判断やその手続きは容易ではなく、さらに単独で院内事故調査委員会を開催することは困難である。そこで、福岡県医師会は、小規模医療機関を含めた福岡県内の全ての医療機関が「モデル事業」に参加出来るように、平成24年4月から全国に先駆けての新しい支援事業を開始している。 本日は、「モデル事業」の現状を報告し、福岡県医師会独自の新規支援事業との関係を含めた福岡地域における「モデル事業」の今後の課題について具体的な議論をお願いしたい。注1)「医療安全調査機構」のホームページ アドレス: http//www.medsafe.jp「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」:福岡地域の現状と課題「日本医療安全調査機構」福岡地域代表 居石 克夫⑵勤務医のつどい

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