勤務医のつどい 第49号
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ともに語ろう、ともに考えよう、ともに行動しよう突然、深刻な状況に直面した医師が警察の取り調べを受けると、世界が一変します。厚生労働省は第三者が詳細に死亡の因果関係を検証する「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を立ち上げました。モデル事業に登録すると、警察への届け出が免除される、大変、有難い試みです。ところが、相談相手も乏しい診療所や中小病院が剖検の承諾を得て、院内事故調査委員会を経て、調査報告書を作成することは難しいことです。その結果、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」への参画は大学病院と大規模病院に著しく偏り、中小病院の診療関連死では、遺族は死亡に至った過程を詳細に知る権利を失い、医師は自らの診療の妥当性を証す機会を逃すことになりかねません。そこで、福岡県医師会は本邦初の試みとして、当該病院が福岡県医師会(夜間と休日はメディカルセンター)に連絡すると、医師と看護師等で編成された調査分析支援チームを派遣し、院内事故調査委員会を開催し、調査報告書を作成して「モデル事業」への参画を支援します。 国立病院機構では、平成16年から、重大な事態や医事紛争に至った事例を、院外の専門委員(複数の医師や看護師)を加えた医療事故調査委員会(機構内では拡大医療安全委員会と称している)を80回ほど開催し、忌憚のない審議を試みています。その一例を示してみます。 鎖骨下静脈からのIVH挿入がうまくいかず、大腿静脈からの穿針を試みたところ、患者さんが、突然、心肺停止状態になりました。直ちに、アンビューバックによる人工呼吸を30分間、続けましたが、残念な結果に至りました。死亡直後の胸部X線の著明な気胸と、鎖骨下静脈穿刺時にエアーリークを認めたことから、病院は穿刺時の肺損傷が気胸を発症させ、死に至ったと判断して警察に届け出ました。数日後、当該病院に急ぎ、緊急医療事故調査委員会を開催しました。その冒頭、担当医は今回の事例は自分が招いたもので申し訳ないと頭を下げ、各委員は沈痛な表情で頷き、静寂が会議室を覆いました。立派な先生と思う反面、これは拙い、このまま警察、検察に行くと、有罪が確定してしまう。忌憚のない審議の結果以下のことが明らかになりました。皮下気腫は心肺停止時には認めなかったが、人工呼吸の30分後には著明に出現した。また、観察を担った看護師は患者さんの呼吸数、心拍、血圧、表情が心肺停止の直前まで全く変化がないことをはっきり覚えていました。呼吸不全で亡くなった患者さんで、苦悶の表情もなく、呼吸数や心拍に異常のないはずはない。診療行為と死亡の間に直接的な関係はないと結論し、その主旨を警察に届けました。幸い、1年後、当該警察署から事件性なしとの連絡を受けました。国立病院機構で経験した警察届け出事例の多くは、忌憚のない審議で、当該病院や当該医師の悲嘆と苦痛が打ち消されました。 医療は生と死の間の生業です。我々の全てが診療行為に関連した死亡事故に遭遇する危険があります。幸い、ほとんどの医師は警察への届け出事例の経験は皆無で、想像外の出来事です。忌憚のない真摯な審議が医師を救う福岡県医師会常任理事 上野 道雄 シンポジウム ── ①福岡県医師会の立場から勤務医のつどい福岡県医師会 勤務医部会福岡市博多区博多駅南2丁目9番30号vol. 49発行日 平成25年3月31日平成24年度福岡県医師会病院委員会・勤務医部会委員会・医療安全対策委員会合同研修会誰に相談しよう、どこに相談しよう-福岡県医師会の新たな試み-⑴

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